第4話 スタートアップ投資実務のポイント②

0)目次

第1話 VCとスタートアップと起業とCVCの経験からの気付き
第2話 最近、なぜ大手事業会社がスタートアップ投資をするのか?
第3話 スタートアップ投資実務のポイント①(前回)
第4話 スタートアップ投資実務のポイント②
・第5話 (予定)ハイブリッド投資の勧め 

前号に続き今号でも、大手事業会社がスタートアップ投資をする際、「投資実務」は何をどのように行うのかについて、ポイントやアドバイスも含め書いていきます。主に今号では、投資した後の話です。

1) 株主報告会

 投資後、経営モニタリングの一環として、株主報告会(取締役会であったり、名称はさまざま)に出席します。報告会を実施していないスタートアップ(以下、SU)もあるので、今回のファイナンスを機に、例えば月1回の報告会実施を提案します。開催頻度は毎月、隔月や3カ月に1回など、SUのステージ等に応じて、他株主の要望も織り込んで決めればいいと思います。報告会の資料作りに膨大な時間をかけるよりも、売上を伸ばすことや採用活動に集中してほしいと思うSUのステージもあります。

株主報告会には、主に投資主担当者1名が出席しますが、どうしても参加が叶わない場合は、社内の別メンバーが参加し、誰も出ないのは極力避けるべきです。メールや資料では分からない、温度感・手触り感を会議の場で(最近はオンラインが多いですが、それでも)、感じ取ることが主目的です。危険な状態なのにその認識に欠けていたり、SU取締役間がギスギスしていたり、SU社長のワンマンさが浮き彫りになったり、頼りになる監査役や社外取締役が見い出せたりetc.。

 株主との定期的なコミュニケーションの機会があると、株主が投資先SUをより理解し、基本的には関係が良好になります。また次回の投資ラウンドでスピーディに追加投資を検討することが出来たり、SUニーズに合致した企業(例:販売先候補、投資家候補)を紹介することが出来たりします。SU側にも、株主側にもメリットが大きいです。

 定期的な報告会があることで、SU経営陣が「常に数字を意識する」ようになることもメリットです。例えば、先月の売上実績は、計画の30%しか達成できてない場合、経営陣は計画と実績のギャップを見て、残りの期間で遅れを取り戻す方法を考えますし、何か(人員や手法)を変える必要がないのか?等、PDCAを高速に回す機会になるんです。意外とこのような振り返りを行っていないSUもあります。株主(VC)から定期的な報告会を求められると、面倒だし、何か怖そうだし、嫌だなと思うこともありますが、SUにメリットがあることをキチンと理解してもらうことが大切だと思います。

我々がお勧めする株主報告会のアジェンダ(案)は以下です。

  1. 前回の振り返り(前回タスクの進捗)
  2. 業績推移(単月および今期累計、計画と実績の乖離)
  3. キャッシュ状況(現預金、バーンレートとランウェイ、資金調達の進捗)
  4. 人事計画(募集しているポジションと報酬、採用の進捗、退職状況)
  5. 株主への依頼(投資家紹介、営業支援etc.)

株主報告会の他メリットとして、株主同士の横の繋がりができることも挙げられます。最近はオンラインでの実施が多いですが、年に1回くらいは対面オフラインでやるのが良いです。株主同士リアルで会って話をすると、その後の株価や権利義務の交渉で意見がぶつかったとしても、割とお互いの意見を尊重してソフトランディングしやすくなります(SUにとっても良い)。また、同じSUを支える(同じ船に乗っている)株主として仲間意識が芽生え、他案件を紹介しあうことにも繋がります。これは投資案件に限った話ではなく、本業の相談や共創案件だったりもします。多くの大企業では系列外との情報交換はまだまだ限定的ですので、とても良い機会だと思います。「御社はどのような企業や領域に投資をしていますか?投資や共創の考えやスタンスについて、対話しませんか?」と株主報告会でお会いした後に面談依頼するとスムーズだと思います。

2)1on1ミーティング

 基本的にはSU経営者と投資主担当者で、1対 1のMTGを毎月行っています(基本オンライン、たまに対面オフライン)。僕の場合は、気付いたことをストレートにフィードバックしたり、自分の実体験を伝えたりしています。成功体験よりも、むしろ失敗体験の方が人は受け止めやすく、「昔こんな成功あってさぁ」、「へー、すごいですね~」で終わるよりも、「こんなことで失敗して撤退したんだけど、御社もこのままだと撤退することに繋がるかもしれないから、こんな兆候が出たら、こうした方がよいかも/こうしない方がよいかも。」と話しています。正解は伝えられないけど、失敗に至るセオリーはいくつか伝えられそうと思っています。ミーティングの基本形は、投資先SU経営者と1対1です。この理由は、他投資家や他役員の前では話さない、話しにくい話をすることもあるからです。

 この「1on1ミーティング」は、株主報告会とは異なるので、前月の月次試算表の結果だとか、その差分をどうやって埋めていくかみたいな話は、僕はこの場では必要がないと思っています。むしろ、その経営者が何に困っているかとか、悩んでいるかということを引き出したり、それについてディスカッションしたり、一緒に悩む時間だと思っています。「分かる、これって難しい問題だよね。僕だったらこうするからかもしれないけど、それはどう思う?」とか話しています。経営者って最終的には1人で判断して決断しなきゃいけないし、すごく孤独な役割なので、正解はこれだよ、なんて言えませんが、寄り添って聞いてあげるだけでも役に立つことがあると思うんです。

 当社の場合、相手が身構えないように、「1on1ミーティング」をわざと「ZATSUDAN MTG」と名付けて実施しています。VCの投資担当者と1 on 1を毎月やりましょうと提案すると、SU経営者は、「また詰められる機会が増えるだけなんじゃないか?」と、はじめは嫌がります(笑)。ですので、事前に何の準備もしなくて良いし、話すテーマも決める必要はなくて、その時に話したいことを何でも話しましょうと伝えています。そうすると、働き過ぎで家族とうまくいっていないとか、No.2(取締役)が辞めそうなんですとか、株主からこんなこと言われているんですがどう思いますか?とか本当に色々な話が出てきます。慣れてくると、このMTGに営業リストを用意してきて、「これ全部紹介してください」って言う、頼もしい経営者もいます(笑)。

 この1on1の良いところは、SU経営者だけではなく、キャピタリスト自身の成長にも繋がることです。経営という観点では、キャピタリストよりもSU経営者の方が得意なシーンが多いかもしれません。その経営者からの学びで、投資先と一緒にキャピタリストが成長することができる良い仕組みだと思っています。しかし、伸びている会社の経営者は多忙なため、キャピタリストの経験や知識・情報・人間的魅力など(時にはコミュニケーションの相性)がないと、続けることが困難です。経験の浅いキャピタリストやCVC担当者は、情報収集力やこれまでの凸凹体験話で、知識不足をカバーするのも手です。

3)資金調達サポート

 投資先SUの資金調達サポートは、ベンチャーキャピタル(以下、VC)の強みの一つです。他VCや事業会社CVC、金融機関等とのネットワークを豊富に持っているので、投資家の紹介も可能ですし、どのような資本政策(ファイナンスのデザイン)に関するアドバイスを行うことができます。

 どのような資本政策(ファイナンスの設計)にするか、つまり、「どの株種で(普通株・優先株・J-KISS等)」「どのタイミングで」「誰から(VC・CVC・海外投資家etc.)」「総額いくら」調達し、「持株比率はどうするか(筆頭株主・経営陣・社内合計)」、等が非常に大切です。僕は、資本政策は「アート」だと考えていて、100%設計通りにいくことは稀ですが、綺麗な資本政策を進めて欲しいと強く願っています。

具体的なアドバイスとして、SUの事業領域やステージに応じて、どのような会社が株主に最適なのかのディスカッションも行いますし、投資家リストを見ながら紹介できそうな投資家に色を付けていきます。SUサイドから、この投資家に資金調達の打診をしたいので繋いで欲しいと言われることも、当然あります。

 ところで、我々が投資先SUへの追加投資を検討する際に重視しているポイントは何か?以下の3つを総合的に、入口の初期判断を行っています。

業績の予実
②フェアバリュー
③コミュニケーションと貢献

①が最も重要で、前回投資時の業績計画に対して、現在の着地(実績)はどうなっているか。例えば計画比80%程度だったら良いのですが、10%の達成率だとかなり厳しいのは明らかですよね。事業計画を楽観的(かなり強気に)に作成するSUもありますが、その時のファイナンスでは希望通り(高め)のバリュエーションで資金調達できるかもしれませんが、追加ファイナンス時に苦戦を強いられるため、強く反対しています。

②は、持分価値が上がり理論上の「含み益」が出るため、追加ファイナンスの株価が高いことは、既存株主としては良いように思いますが、中期的視点で見ると次回以降のファイナンスやIPOに悪い影響が出るため、賛成しません。稀にフェアバリューよりかなり割高だと思うのに、想定より資金が集まる場合があります。その場合、VC等の既存株主は、持分譲渡を検討するケースすらあります。逆に安すぎるバリュエーションにも賛成しません。投資家の新株取得の観点からは一見良いように思えますが、経営者にとって命の次に大切な?自社株式を安売りする経営者は、商売が上手くない(交渉に弱い)ケースが殆どで、事業計画が達成できない場合が多いと考えています。

 ③は最初の投資を行った後のコミュニケーション等を通して、投資先SUと当社との相性はどうか?という点を再確認します。対話がしっくりきているか、当社が成長の役に立っているか、等です。また、投資先SU経営陣は、株主の提案にいったんは耳を傾け検討し、実行する/しないを判断することができているか、つまり「Coachable」かどうかとも表現できるかもしれません。

 ①~③を総合的に勘案して一次検討(DD)を行いますので、①~③のどれか一つが基準に満たないから、自動的に追加投資を見送るということではありません。

4)業務提携サポート

 SUのステージがシードやアーリーの時期においては、株主の支援は起業家向けアドバイスや資金調達(出資)が中心ですが、ミドルやレイターの時期においては、大手事業会社とどのように組んでいくのか(協業や業務提携)が最重要テーマの一つになります。株主として、腕の見せどころです!

SUが大手事業会社に協業提案に行く際、いつも同じような提案書を使い、自社のサービスや技術の紹介をするのは、お勧めしません。数を打つより、相手をしっかりリサーチし最適なタイミングでの提案(質の向上)をお勧めします。面談企業の中期事業計画を読み込んだ上で、その計画に自社が交わる形の協業案を3つ用意して、然るべき相手、つまりその会社の協業検討部門に対して提案すると確度が高まります。協業検討に関わる部門とは、CVC部門や投資部門、新規事業開発部門、そして経営企画部門です。

 お互いのステータス(状況)やタイミングも、とても大切です。大手事業会社側は、積極的に新規事業をやりたい、スタートアップにも投資したい、という状況もありますし、凍結中(消極的)になっているタイミングもあります。SU側も、商品やサービスが既に出来ているのか開発中なのか、トライアル的に使ってほしいのか、もしくは拡販フェーズに入ってきたのか、組織面でも営業や事業開発の人が確保できているのか、はたまた技術者だけなのか等、自社の状況に応じた動き方が求められます。このような大手事業会社とSUの双方の状況やタイミングを考慮しながら、当社は協業MTGのタイミング提案と面談設定を行い、必要に応じて初回MTGに出席することもあります。

当社はフードテックに特化していますので、この領域の経験や知見、人的ネットワークを持っています。それらは、1on1ミーティング(起業家メンタリング)や業務提携(協業)サポートにおける価値提供に繋がっています。強みを獲得する(際立たせる)ために、当社は食セクター特化(局地戦)を行っています。

5)チームビルディングのサポート

 SUの成長において、どのようにチームビルディング(チーム組成)を行うかは重要なポイントです。投資先SUのステージによっては、まだ整備されていない部門がありますので、強化するポジションは何か(例えばCFOやCMO)、そのポジションに人を配置・採用するタイミングや待遇について、投資先SUの経営陣とディスカッションします。加えて、ストックオプション付与(主にルール設計)に関するアドバイス、離職しそうな社員についても経営陣と対話します。

 これらはあくまでも、最終的には経営者が決定することですが、経験の浅い経営者は、対象者の「前職の社名やスキル」に目が行きがちなケースが多いので、人柄や価値観が会社と合致しているか(近いか)という視点に気づいてもらうなど、多様な視点を入れる事も、たくさんの事例を見て来たVC等の機能・役割の一つだと考えています。  CFOやCMOの候補者について、採用と同時に取締役にはせず、入社後一定期間はその働きぶりや会社との相性を見て判断する方が良い、とアドバイスすることが多いです。

次号(最終話)につづく

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