日本唯一のフードテック特化VC創業者による、投資・共創のポイント
~起業家理解がオープンイノベーション成功のカギ~
第2話  最近、なぜ大手事業会社がスタートアップ投資をするのか?

0)目次

第1話 VCとスタートアップと起業とCVCの経験からの気付き (前回) 
・第2話 最近、なぜ大手事業会社がスタートアップ投資をするのか?(今回) 
・第3話 (予定)スタートアップ投資実務のポイント 
・第4話 (予定)ハイブリッド投資の勧め 
・第5話 (予定)大手事業会社とスタートアップの共創 

1)自前主義の終焉?

 元来日本企業(特に大手企業)は、研究開発・製造・販売というバリューチェーンを、自社内もしくは自社グループ内(含む系列の取引先)で行ってきました(自前主義、クローズド・イノベーション)。自前主義は、大量生産の効率性や取引コスト(含む新規取引に係る調査・開拓やコミュニケーションコスト)で、メリットがあったかもしれません。しかし、近年、顧客ニーズの多様化・高度化、インターネットの飛躍的発展、グローバル競争激化に伴い、ビジネスに「スピード」が求められるようになってきました。
これまで慎重を重んじてきた?日本の大手企業がスピードに対応するには、既存のネットワーク外にあるアイデア・技術・知識・人材も活用せざるを得ない状況となり、オープンイノベーションに注目が集まっています。しかし、「うちは自前主義だ」「石橋を叩いて渡る・叩いても渡らない」という言葉を、最近でも大手企業の方々から耳にすることがあります。

2)オープンイノベーション(共創)

 そもそも、オープンイノベーションとは、「ビジネスにおいて、企業が外部のアイデアや技術を活用する(取り込む)とともに、利用していない自社アイデアを他社に活用してもらうこと」です。オープンイノベーションを検討する際、大手企業同士という選択肢に加え、スタートアップも選択肢に加えるべきです。大手企業同士では、文化が似ていてイノベーションが起きにくかったり、決定まで時間がかかり本来の目的であるスピードに欠けたり、グループ内に似たような事業を手掛ける会社があったりで、なかなか進まないことも多いです。もちろん、日本国内の大手企業同士のオープンイノベーションの良い事例もあります。代表例として、「ユニクロ×東レ」のヒートテックやダウンジャケットです。ここでは割愛しますが、気になる方は詳細を調べてみてくださいね。

スタートアップは、どこの系列にも属さず、新たなテクノロジーを活用しながら新たなマーケットに挑戦しているケースが多く、大手企業の共創検討の筆頭と言えます。

3)スタートアップが持っているもの

スタートアップとは、「新しいビジネスモデルや市場を開拓し、社会に新しい価値を提供する企業」です。また、スタートアップの特徴として、イノベーションや社会課題解決を意識する、急成長を目指す、EXIT戦略(株式公開=IPO、M&A=大手企業への会社売却)を会社設立時から考えている、等が挙げられます。
大手企業とスタートアップの持っている(であろう)コトを比較してみます。大手企業は何でも持っているように思われていますが、この表を見ると気づくことがあります。

・大手企業は新たな市場に気づいていても、「現在の市場規模」を理由に取り組めなかったりします。「これ、数年後に多分来そうだけど、当社の規模だと市場が小さすぎて(ニッチ新市場)今は取り組めないよね…」
だから、取り組んでいるスタートアップと今の内から仲良くなっておく。
・大手企業には、天才も変人(誉め言葉)も殆どいません。間違って?入社したとしても、居心地が悪くて出て行ってしまう。もしくは、出る杭を打つ的に、殺してしまっているかもしれません。
→伸びているスタートアップでは、「急成長に伴う慢性的な人材不足」や「一点突破の戦略」ゆえに、天才や変人が在籍しています。天才や変人は、凄い技術やアイデアを持っている場合が多いです。天才や変人と共創することは、オープンイノベーションに繋がる可能性が高いのです。
・スタートアップは、決定するのも着手するのも変更するのも、とにかくスピードが早い。まずやってみて、走りながら継続改善して作っていく。大手企業の稟議規定やガバナンス体制が、スピードの足枷になっている場合もありますし、既存事業を持たないからスタートアップは早い(ゼロベース発想)とも言えます。
→技術やアイデアに加え、スタートアップから企業文化の学びも得ることもお勧めします。社歴が長い大手企業のオーナー(かつては起業家)は、スタートアップ起業家との共創を通じ、創業時のマインド(想い)を「社員教育」に活かす事例もあります。

4)テクノロジー(技術)×マーケット(市場)

大手企業とスタートアップの比較を「テクノロジー×マーケット」の4象限マトリックスで見てみます。スタートアップは、「新しいテクノロジーを活用して、新たなマーケット」(図の青部分)にチャレンジすることが、ビジネスチャンスがあり強みが発揮しやすいと思います。反面、それ以外3つの領域では、大手企業と渡り合うのは困難かもしれません。
大手企業がスタートアップとオープンイノベーション(共創)を目指す場合には、このマトリックスを頭にいれておいても良いかもしれません。我々が、アグリフードテックのスタートアップに投資検討する際も、この視点を常に考慮しています。

5)スタートアップ(起業家)の行動特性

本コラムのサブタイトルは、「起業家理解がオープンイノベーション成功のカギ」です。ここで、起業家の行動特性を見ていきます。あくまで著者の経験からくる主観であり、公式な調査などに拠りません(笑)。

・スタートアップ起業家は、情熱(想い)を大切にします。想いが原動力、とも言えます。
・スタートアップ起業家は、せっかちで早い仕事を好みます。遅い仕事、レスをしない相手(たとえNO回答だとしても)を嫌います。
・スタートアップ起業家は、イノベーションや社会課題の解決がしたくて起業する(ケースが多いです)。
・スタートアップ起業家は、安定より変化を好みます。「前例がない」「このままでいいんじゃない」を嫌います。リスクを取らないことが、最大のリスク。リスクは取るものでなく、コントロール(マネージ)するもの。
・スタートアップ起業家は、過去より未来を重視します。過去が現在を作り、現在が未来を作ることは理解していますが、未来志向でポジティブ思考です。
・スタートアップは、(当たり前かもしれませんが)資金が乏しく、ベンチャーキャピタルや大手企業CVCからの資金調達を頑張っています。社長(もしくは他の常勤取締役)に資金調達力があることは、スタートアップの企業価値や競争優位性を高めます。
・スタートアップの多くは知名度が低く(大手企業と比較して)、営業力が弱い場合が多いです。反面、特色ある独自技術やユニークなサービス(又はビジネスモデル)を持っています。

6)取引だけすれば良いのでは?

大手企業の方から「なぜスタートアップに投資をする必要があるんでしょうか?共創や取引だけでは十分でないですか?」と聞かれることがあります。結論から言いますが(笑)、「十分でないです」。株式公開している大手企業と異なり、スタートアップは未公開企業です。株式公開している企業は、ホームページなどで役員の経歴・決算書・株主名簿・中期事業計画などを開示しています。株式公開していない未公開企業は、それらの情報は基本的に非公開です。ですから「未公開企業」と言われているのです(笑)。
共創や取引を通じて、スタートアップの役員の経歴・決算書・株主名簿・中期事業計画、という超重要情報に触れられることは、残念ながらないのです。投資をして株主になることによって初めて、未公開企業(スタートアップ)の超重要情報に触れられるようになります。それらの情報は、スタートアップとの共創の「精度や実現確率」を高めることに繋がります。スタートアップのそれらの情報から、例えば以下のようなことが読み取れるのです。

・今後の事業計画における注力領域は、自社(大手企業)の興味ある領域が含まれているか?売上の内、どの程度の割合になると考えているのか? 
・自社のライバル企業と提携交渉していたりしないか?もししている場合、どのような概要なのか? 
・経営陣の職歴を見ると、事業計画の実現可能性がある程度判断できたりする。
・どの程度の赤字を掘っている企業なのか?現預金残は?いつまでに資金調達をしないと資金ショートしてしまうのか?万が一、取引を縮小しなくてはならないタイミングはいつか?
・ライバル企業やそのグループ企業が株主に入っていないか?etc.

どうですか?これらの情報を知った上で、スタートアップと共創する方が、より良い形を模索出来そうでありませんか?もちろん、投資をチラつかせて重要情報のみを吸い上げるようなことは禁じ手です。当然、秘密保持契約書も効力を持ちますが、それ以上にスタートアップ投資コミュニティ(狭い)で悪評が広がり、他の投資案件や共創案件に悪い影響が生じることになります。

つづく

pagetop