vol.16 「&mog Bar〜食とつながる、未来を語る夜〜」を開催。食を通じて社会課題の解決に挑む、カゴメの健康サービス事業とは?【三井不動産 ✕ カゴメ】

2025年8月19日(火)、東京・日本橋のダイニングバー「Genomic Giraffe」にて、第2回「&mog Bar」が開催された。今回は、特別ゲストにカゴメ株式会社の湯地高廣さんを迎え、健康サービスをはじめとした新規事業やイノベーションを生み出すポイントを自らの経験を交えて語っていただいた。会場には、食ビジネスのプレイヤーやスタートアップ、イノベーションに関心を寄せる方々など約20名が集まり、食事やお酒を楽しみながら交流を深めた。
まずは、カゴメと湯地さんの紹介から。カゴメは1899年、愛知県の農家・蟹江一太郎氏によって創業された食品メーカー。野菜や果実を原料とした飲料・食品を中心に、調味料、生鮮野菜、業務用商品、通販商品など幅広く展開している。2016年からは「トマトの会社から、野菜の会社に。」をビジョンに掲げ、生活者の野菜不足解消を目指した健康サービス事業にも積極的に取り組んでいる。

2004年にカゴメに入社した湯地さんは、大阪や九州での営業職を経て、新商品の立ち上げやマーケティングなど多彩な業務を経験。初めて商品企画に携わったのは、2011年に発売した「野菜生活100」リフレッシュシリーズで、そのために沖縄の農家を訪ね歩いたという。

「『野菜生活100』季節限定シリーズは、日本各地の農産物を使い、その季節にしか味わえない地域のおいしさを全国の皆さんに楽しんでいただく“地産全消”をコンセプトとしています。日本の農業を応援したいという一心です」と湯地さん。
さらに、営業職時代にはこんなユニークな挑戦もあった。

「『合格祈願これ1本』という野菜ジュースが発売されたとき、受験生をターゲットに神社で手売りすることを思いついたんです。本来、神社境内のなかでJANコード付きの商品を販売するのはNGなのですが、当時勤務していた九州にある神社に電話でお願いしました。社内では、『真冬の神社で野菜ジュースを買う人なんているのか』という声もありましたが、実際にやってみたら予想以上に売れたんです(笑)。ここで学んだのは、既存のルールや概念にとらわれず、自分のやりたいこと=willを形にすれば、結果がついてくるということ。誰かに言われて…ではなく、自分のやりたいことをやる。この姿勢は今も変わっていません」

現在、湯地さんが所属する健康事業部は、生活者の野菜不足を解消して健康寿命を伸ばすことを目的に2018年に設立された。ここでは、企業や自治体向けに食生活改善の行動変容や健康増進をサポートするサービスを開発・販売している。
「健康事業部では、モノ以外の取り組みを通じて生活者の意識や行動を変えることを目指しています。例えば、『野菜と生活 管理栄養士ラボ』には管理栄養士の資格を持つ社員が在籍し、彼らが講師となって食生活の改善や減塩、女性の健康などをテーマに有料のセミナーを行っています。また、ドイツのBiozoom services社と共同開発した『ベジチェック』は、手のひらをセンサーに当てるだけで推定野菜摂取量が表示される機器で、わずか数十秒で結果を見ることができる簡便さが特徴です。こちらは企業や自治体の健康増進支援ツールとして、2019年にレンタル・リースを開始しました」
湯地さんによれば、これらはいずれも自社のアセットを活用した新規事業で、食と健康にまつわる社会課題の解決を視野に、社内外との連携によって生まれたとのこと。2025年6月時点で、セミナーの受講者は延べ32,000人以上、『ベジチェック』の導入台数は5,500台を超えているという。
さらに、2024年3月からは「ナトカリ比改善プログラム」をスタートした。ナトカリ比(尿中に排泄されるナトリウムとカリウムの比率)は高血圧リスクと関係があり、日本人の食生活改善に重要な指標とされる。本プログラムでは「ベジチェック」や尿検査と併せて野菜摂取の行動変容とナトカリ比改善を促す。

「ナトカリ比の事業化に際しては、『高血圧予防の啓蒙やサービス提供をなぜカゴメがやるのか』と厳しい問いが投げかけられました。新規事業やイノベーションでは、周囲からの『なぜ?』に答える明確な根拠とエビデンスが不可欠です。そもそも私たちが取り組んでいる健康サービス事業は、モノを作って販売する部署とは根本的に性質が異なり、即時的に利益を生むわけではありません。そのなかで、いかに先行プレイヤーを含む他社と協働し、事業をドライブさせていけるか。これが会社の利益に貢献するカギとなります」
2025年の大阪・関西万博で展示・公開されたシューティングゲーム「わくわく!野菜でカラフルVR」もその一例だ。これは、経済産業省が推進するPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)を活用してカゴメが開発した体験型コンテンツ。VRで再現された体内を舞台に、武器(ベジタブルガン)を使って健康を損なう悪い敵と戦うというもので、NTTドコモが提供する「健康マイレージ」や、カゴメが開発した野菜摂取習慣化アプリ「ベジクエスト」とも連携し、楽しみながら野菜摂取を促していく。
「万博会場では、『ベジチェック』で測定した野菜摂取レベルに応じて武器の強さが変化する仕掛けも用意しました。やはり、野菜の効果・効能を理屈で訴えるだけでなく、ゲームやエンターテイメントといった右脳的アプローチも必要です。今後はGIGAスクール構想とも連携し、子どもたちが自然に野菜や健康習慣に親しめる環境を整えていきたいと思っています」

湯地さんによるプレゼンテーションの後は、参加者とのフリートークタイムへ。カゴメの野菜ジュースを使ったカクテルを楽しみながら、食と健康を軸にしたビジネスの展望や企業内でのイノベーション創出について活発な意見交換が行われた。会場は和やかな交流の場となり、盛況のうちに幕を閉じた。
湯地 高廣
カゴメ株式会社 健康事業部 健康サービス開発グループ課長、健康経営エキスパートアドバイザー。2004年カゴメに入社。営業、商品企画、マーケティング、および新事業に携わるなど、社内の業務をマルチに経験。また、社外とのコンソーシアム活動・地域の街づくり活動などにも精力的に参加。健康経営エキスパートアドバイザーとして、企業の健康経営の支援や大学での講師活動を行っている。
Text : Kimiko Honma
Photo : Yoshiko Yoda

