vol.12「Tokyo Food Meetup Global」第2回を開催。食のグローバル化のためのキーワードは“群化”【三井不動産】

コンセプトの設計から都市実装まで、ワンストップで食の事業開発をサポートするプラットフォーム「&mog by Mitsui Fudosan」。今春、日本橋を拠点にスタートしたこのプロジェクトのキーワードは〝街で育む、未来の食〟。三井不動産が食に関わるパートナー企業と共に、新たなイノベーションを生み出すためのさまざまな活動を行なっています。
「&mog王国」では毎月開催されるプロジェクトのイベントや最新ニュースをご紹介。日本橋から始まる新しい食の潮流をレポートします!
2025年4月28日(月)、東京ミッドタウン八重洲5Fのイノベーションフィールドにて、第2回目となる「Tokyo Food Meetup Global」が開催された。この日は食領域で海外展開を目指す企業とそれを支援する企業の担当者など62名が参加。モデレーターは株式会社UnlocX代表取締役CEOの田中宏隆さんが務め、Tokyo Food Meetup Globalおよび&mog by Mitsui Fudosanの最新の取り組みと日本の食のグローバル化を軸とする2つのパネルディスカッションを実施。セッション後にはネットワーキングの時間も設けられた。
1)スタートアップを手厚くサポート!
日本橋に研究開発拠点「&mog Food Lab」誕生
まずは&mogの最新の取り組みとして、今年2月26日に日本橋にオープンしたばかりの「&mog Food Lab」の紹介が行なわれた。三井不動産株式会社日本橋街づくり推進部事業グループの吉田信貴さんによる動画を用いた説明に続き、運営を担う株式会社シグマクシス・川本拓己さんによる新しいプログラムの紹介、さらに実際の入居者によるプレゼンテーションとして株式会社食の会代表の長内あや愛さんが登壇した。

川本さんは「三井不動産さんと我々を含めた様々なパートナーが、一気通貫で食の事業創生をサポートしているのが現在の&mog。中でも需要の多い商品開発拠点としてオープンしたのが&mog Food Labです」と話す。
川本さんは複数の企業の新規事業開発サポートを進める中で「様々な情報をインプットしたいのに追いきれない」「アイデアがありきたりなものになってしまう」「生活者の声をもっと拾いたい」という、各社共通の課題が見えてきたという。「そこで、それらの課題をまとめて解決できるようなプログラムを作れないだろうか? ということで生まれたのが、&mog フードイノベーションプログラムです。このプログラムは、三井不動産さんの持つハードアセットと、我々シグマクシスの食領域における知見やネットワークを掛け合わせることで、新しい事業開発をサポートしていく、というものです」と続ける。
「このプログラムによって可能となるのは、最先端の小売現場では今何が起こっているのか、デジタルの領域で何が起こっているか、といった〝多面的な情報のインプット〟です。次に、新たに完成した&mog Food Labの活用があります。ここでは商品のコンセプト作りから配合設定までの一気通貫したサポートが受けられるほか、施設内にあるキッチンも利用可能。製造許可取得可能なため、ここで作った製品はそのまま販売可能であり、テスト販売の段階で自社名を表に出すことに抵抗がある企業様のために、販売責任会社を別の会社にできる仕組みも整えています。さらに三井不動産さんの持つ住宅、オフィス、商業施設といったハードアセットを利用して、そこで住まう人、働く人、楽しむ人たちといった、お客様になりそうな方々の声を直接拾うこともできます」

続いて登壇したのは&mog Food Labの入居者であり、江戸時代末期から明治期にかけて普及した新しい食に着目し、当時の再現料理を提供する飲食店「食の會日本橋」を運営する株式会社食の会代表の長内あや愛さん。長内さんは&mogが事業支援するスタートアップ企業の一つフェルメクテス株式会社の経営者・シェフ・ブランディングオフィサーとしても精力的に活動している。
フェルメクテス株式会社では納豆菌そのものをタンパク資源として実用化した粉末食品「Kin-pun(キンプン)」の開発を進めており、「Kin-pun」を利用したレシピ開発や商品のテスト販売を進めていくにあたって、本格的な調理設備と交流スペースを兼ねたラウンジのある&mog Food Labへの入居を決めたという。
「&mog Food Lab の5Fにはコンベクションオーブンなどの本格的な調理器具が備わっているほか、1Fのラウンジではキッチンスペースの目の前にテーブルがあり、試食品を作ってすぐに座って食べられる構造になっています。情報発信のための動画撮影もできますし、ちょっとした懇親会やパーティのような交流スペースとしても利用できます」と長内さん。
また、&mog Food Labは全てのキッチンが製造許可取得済可能であり、前述したようにここで作られた商品をそのまま販売することもできます。実際に、長内さんが今年4月に日本橋で開催されたイベント「SAKURA FES NIHONBASHI 2025」で販売したKin-punを用いたスイーツも、ここで製造されている。
「これまで&mog さんからご紹介いただいた素材や新食材を使い、&mog Food Labでアレンジをして製造し、実際に街の中で訪れた皆さまに商品を食べていただきました。販売の際に生活者の声を聞き、素材を提供してくださった方にフィードバックすることも可能です。このように製造から販売まで一貫したサポートがあるのは食のスタートアップにとっては非常にありがたく、使い勝手も良く、我々にとっては夢のような施設ですね」
&mog Food Labは数日あるいは数時間、といったスポット利用も可能だ。日本橋は三井不動産のルーツでもある場所。ここ活動拠点として成長し、世界へと羽ばたく食のスタートアップ企業が誕生する日が近いことを願うばかりだ。
2)パネルディスカッション1
「食産業のグローバル化の方向性と必要な取組み・仕組みを考える

続いて、本題である「食のグローバル化」テーマを移してのディスカッションへ。一つ目のパネルディスカッションでは、「食産業のグローバル化の方向性と必要な取り組み・仕組みを考える」というテーマで、すでに同テーマに取り組んでいるリーティングカンパニーが集結。各社の事業内容とグローバル化への取り組み紹介に続き、それぞれの立場から活発な意見が交わされた。
日本酒などの醸造食品の設備メーカーである株式会社フジワラテクノアートからは、代表取締役副社長の藤原加奈さんが登壇。同社は58年前から醸造機器の輸出をスタートしており、これまで海外27カ国に設備を納入した実績を持つ。もとは取引先の海外展開に付随して自社製品を海外へ納入するのが主だったが、以降、顧客任せではなく自ら海外への販路開拓に着手しているという。
株式会社フィット& リカバリーからはCEOの鶴留洋一さんが登壇。特殊玄米粉を開発している同社では、グルテンアレルギーでも心から楽しめる食体験をしてもらおうと、海外市場への参入にも取り組んでいる。特殊玄米粉とは、もともとおいしい蕎麦粉を作るために長年の試行錯誤から生まれた技術「乾式低温爆砕」を応用したもの。水を使わずに超低温環境で物質同士の衝突の力で粉砕するため、きめが細かく、従来の米粉とは全く違う食味や使いやすさに仕上がる。99%米粉のグルテンフリー乾麺を開発し、輸出する予定とのことだ。 株式会社NINZIAの代表取締役・寄玉昌宏さんは、日本の伝統食材であるコンニャクに着目し、コンニャク芋から天然の食物繊維を取り出す技術を開発。これを食材同士のつなぎとして活用し他の原材料と組み合わせることで、グルテンフリーのワッフルや栄養強化スナック(シリアル)、ヴィーガンやベジタリアンに対応した製品の製造も可能になるという。2024年には国際的なフードテックイベント「Food 4 Future – Expo FoodTech 2024」において、日本企業として唯一「Healthy Food Award」のファイナリストに選出など、その取り組みは世界的にも注目されている。

こうしたスタートアップの支援を目指す金融業界からは、株式会社三菱UFJ銀行 ケミカル・ウェルビーイング部次長の芳賀真倫さんが登壇。社会課題解決に向けて食領域での貢献を目的とする同行では、3年前にケミカル・ウェルビーイング部が立ち上げられた。強靭な食料システムの構築や個人のウエルビーイングの向上を目指し、海外においては現地政府や企業との橋渡し役を担っている事例を紹介した。
各社のグローバル化の取り組みにはそれぞれ特徴があり、これから本格的に海外展開に着手する企業にとってはもちろんのこと、すでに取り組んでいる企業も多くのヒントや気づきを持ち帰ることができたようだ。
3)「Collective Actions〜垣根を越える」食産業のグローバル化に向けた“群となって”取るべきアクションとは?

2つ目のパネルディスカッションは、食産業のグローバル化に取り組む意義について考えるというもの。壇上に過去3回にわたってTokyo Food Meetup Globalで議論されてきた食産業のグローバル化に向けたプロジェクト創造のアイデアが投影され、その過程を振り返りつつ、ディスカッションが進められた。
モデレーターの田中さんは「日本では世界に通用するプロダクトが次々と生まれているし、それを支えたいと考えているプロフェッショナルも多く存在しています。これに伴い、国際物流では小口取引のインフラを望む声も出てきました。海外進出をする際、ウォルマートなど大手と取引をするには膨大な数量の生産体制や投資策も不可欠ですが、海外に出店している日系スーパーのようなチャネルとの繋がりが持てれば、小規模やスタートアップにも参入の可能性が見えてくるのではないでしょうか?
さらに世界では、同じ目的を持つ個人や団体による”クラスター”と呼ばれる様々なジャンルの中間組織体が生まれ、繋がり出しているという動きもあります。でもこういった取り組みはまだバラバラで粒と粒の状態。だからこそ繋げていく仕組みが必要だと思うのです。そこで今回は、キーワードを“群化”に絞り込んで議論したいと思います」とディスカッションの目的を説明。
最初に口を開いたパネリストは、西村あさひ法律事務所の弁護士・片桐秀樹さん。
「私は食文化に特化したイノベーションの創出をホームに活動しています。新しい食材の国内外におけるサポートも多いので、日常からグローバルな仕事と向き合っています。流通や小売の機能にミッシングピースがあるように思いますので、それらを可視化すれば次に繋げていけると考えています」
行政から参加した農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 新事業・国際グループ長 の飯田明子さんはまず、「フードテックなどの新事業の創出、食品産業が国際マーケットで抱える人権や環境などの課題を担当しています。これまでの議論から、日本の農産物の輸出、食品産業の海外展開においては、食に関する技術に大変強みがあると感じました」と所感を説明。
味の素株式会社でグリーン事業推進部戦略グループ長を務める小澤由行さんは、「私は現在、地球環境に貢献するような食を世界に広げていこうと新規事業の開発を進めています。具体的には昨年シンガポールでAtlr.72™(アトリエ・セブンツー)というブランドを立ち上げ、フードトラックでアイスクリームを販売しています。素材に二酸化炭素から作られたタンパク質Solein®(ソレイン)を用いたアイスクリームです。ソレインはベータカロチンのような黄色をしていて、中華圏では黄色が大地を意味する色。そこでスクープしたアイスを地球に見立て、そこを花や鳥などで埋め尽くそうというメッセージを込めたデザインにしています。半年ほど販売してみて得た気づきが色々あるので、この場で共有させていただければ」と続けた。
三井不動産日本橋街づくり推進部事業グループ主事の柿野陽さんは&mogプロジェクトのこれまでを振り返り、「昨年3月にプロジェクトが立ち上がり、施策は進捗しているものの、まさに現在も社内のリソースの確保に苦戦しているところです。上層部にこのプロジェクトが伸びていくと思わせきれていないのが原因かと。グローバル化の要素を入れ、成長ストーリーが描いていきたいと考えています」
同じく、食をテーマとした街づくりを推進している東京建物の沢田明大さんは「当社では2017年頃から食のグローバル化に取り組んでいます。まず2019年、イタリアの食関連企業と提携しました。それを機に、グローバルな観点から見た食の現在地や世の中の動きを知りました。昨年はスペインのバスク・カリナリー・センターと提携し、東京駅のそばにGastronomy Innovation Campus Tokyoという食の大学を設立しました。プレイヤーの皆さんにとっていかにグローバルの架け橋になることができるかを考えて日々活動しています」
続けて、「世界に行くだけではなく、日本の食の可能性を世界に解放するという意味でも食産業のグローバル化はやらない選択肢はありません。チャンスがあるのと同時に機を逃す危機感の両面で受け止めている」と語る田中さんが、「なぜ今、食産業のグローバル化に取り組んでいるのか?」と投げかけた。
これに対し片桐さんは「かつて日本の食は、海外市場への進出にあたり距離的な制約がありました。それが冷凍や粉末化といった技術の発達に伴い、日本の食の価値をそのまま提供できるようになりました。距離にとらわれなくなった今こそ、グローバル化の進めどきだと感じます。また、日本の食文化や優れた加工技術のノウハウなども含めて知的財産とする“食の知財化”が実現すれば、日本の食は世界の食業界のメインストリームに行けると考えています」とコメント。
農水省の飯田さんは「逆説的ではありますが、日本の食産業の持続的発展のためにもグローバル化は重要です。日本は人口減少の問題がある一方で、高い食の技術を持っています。課題先進国として今グローバル化に取り組む必要があると感じています」と話した。
田中さんはここで「日本の食のグローバル化のために、粒と粒の状態から群れで取り組んでいくには、何を本気でやるべきだと考えますか?」と問いかけた。
味の素の小澤さんは「スタートアップ企業が実際に海外でビジネスを展開しようとすると、税務、法務、品質保証などバックオフィス機能を、グローバル化に取り組む中小企業やスタートアップ企業が共有できる仕組みが必要ではないでしょうか。そういった機能をオープンにして、本当に困った時にだけお金をかけて専門家に相談できるような仕組みがあるといいですよね。味の素では社内にスペシャリストがいて、常に情報のアンテナが張られている。すぐに対応してもらえる環境があるからこそ、そのように感じます」とコメント。


このディスカッションでは、粒と粒から群となって動くことの重要性を共通認識として持ちながらも、その実現のために必要なのは「誰がリーダーとなって進めていくのか」という先導役の存在と、取り組みを推し進めるための共通認識のあり方が問われる、という課題も浮き彫りに。それぞれの立場での意見が飛び交い、議論が深まっていく有意義な時間となった。
ディスカッションの締めくくりに、東京建物の沢田さんが力強いコメントを残してくれた。
「今年はぜひ、イノベーションを生めるような競争がしたい。いずれは日本のフードテックが世界のセンターを取りたいと思っているので、今年は皆さんと一緒にイノベーションを生む活動をしていきたいと思っています」
業界のジャンルの垣根を越えた繋がりが、日本の食のグローバル化には必要不可欠だ。今後さらに議論を深めながら、粒と粒が群となって食のグローバル化を目指すきっかけの場となるよう、未来への期待を高めつつイベントは幕を閉じた。
■クレジット
文: Hanayo Tanaka
写真:Akiko Okada