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vol.10 2024年春のプロジェクトスタートから1年。 2年目を迎える「&mog by Mitsui Fudosan」の これまでと、これから 【三井不動産】

コンセプトの設計から都市実装まで、ワンストップで食の事業開発をサポートするプラットフォーム「&mog by Mitsui Fudosan」。今春、日本橋を拠点にスタートしたこのプロジェクトのキーワードは〝街で育む、未来の食〟。三井不動産が食に関わるパートナー企業と共に、新たなイノベーションを生み出すためのさまざまな活動を行なっています。

「&mog王国」では毎月開催されるプロジェクトのイベントや最新ニュースをご紹介。日本橋から始まる新しい食の潮流をレポートします!

&mogが事業支援を行なっているスタートアップ企業が手がける、納豆菌をタンパク質として実用化した「kinpun(キンプン)」。

食の事業創出を目指すプラットフォーム「&mog by Mitsui Fudosan」が、2 0 24年3月に始動してちょうど1年。本連載でもさまざまな取り組みを紹介してきたが、今回はプロジェクトを推進してきた吉田信貴さんに、その成果と今後の課題についてお話を伺った。

「改めて考えると、1年前に描いた姿と齟齬なく合致しているなと思いました。最初の年ということで、僕らは二つの大きな目標を掲げていたんです。一つは&mogの認知度をあげていくこと。もう一つは、プレイヤーが事業開発できる場を作ることでした」と話す。

 認知度を上げたのは、この一年に開催された多くのイベントだ。なかでも象徴的だったのが、食の共創を生み出すグローバルなカンファレンス「SKS JAPAN」の存在。「&mog by Mitsui Fudosan」では会場の手配から準備、日本橋の街中での展示など、様々な角度からこのイベントに尽力してきた。

2024年10月に日本橋で開催された「SKS JAPAN」。今回から街中展示(写真下)もスタートした。
写真提供:SKS JAPAN

「『SKS JAPAN』を日本橋で開催できたことは、とても大きな意味のあることでした。今まで、参加企業の展示は会場内で完結していましたが、食の最終消費者である生活者もイベントに巻き込みたいという思いがあり、今回は街中展示という形でその機会を作ることができました。展示を行うプレイヤーにとって生活者へのリーチの場になり、また、生活者からのフィードバックを受け、事業活動に反映できることが重要なのです」

また、二つ目の目標であるプレイヤーが事業開発できる場としては、今年2月に完成した研究支援施設「&mog Food Lab」がその役割を担っていくという。

日本橋富沢町に開設された「&mog Food Lab」は、事業開発の支援を目的に、メーカーやスタートアップのテストキッチンとして活用される予定だ。建物は5階建てで、1階には商談や試食会などができるスペースとキッチンがあり、2~4階にも製造許可がとれるテストキッチンを完備している。さらに5階には撮影スタジオや会議室も備えているという。

2025年2月、日本橋富沢町にオープンした食の研究開発拠点「&mog Food Lab」。

契約は賃貸で1年や2年、といった中長期から、毎日3時間だけ使いたい、月曜から水曜まで使いたい、といったスポット使用まで用途に合わせてフレキシブルに対応できるという。日本橋の街にこうしたキッチンラボを作ることで、食の事業創造を加速させていく考えだ。

「最初のキッチンラボである『&mog Food Lab』には、ケーススタディの意味もありました。果たしてどういう設備なのか、どんなプレイヤーが集まる場所が必要とされるのか?  といったことを検証しながら運営スキームの改良などを進めています。そして、今後はもう少し大きな規模のものにしていきたいと考えています」と吉田さん。

この「&mog Food Lab」が始動したことで「&mog by Mitsui Fudosan」の立ち位置が大きく変わったという。

「今までは、大手企業とスタートアップを繋ぐ、あるいは人材を紹介する、テストマーケティングを行う—–など、情報や技術を支援する取り組みが主でした。つまりソフト面での支援が多かったのですが、今回『&mog Food Lab』という物理的な施設ができたことで、我々の取り組みがより具体的に、見える形になっていくと思います。そういう意味で、「&mog by Mitsui Fudosan」の覚悟みたいなものを、これから一層感じていただけるのではないかと考えています」

また、 スタートアップとの連携についても、この一年で多くの実績を作ってきた。なかでも印象に残ったのが、納豆菌をタンパク質として実用化した「kinpun(キンプン)」だと、吉田さんはいう。

「既にあるkin-punという商品をどう事業化していくか?  が鍵でした。そこで繋がりのある料理研究家の方にレシピ提案をお願いし、試作品を作ったのです。さらにそのレシピに消費者がどう反応するかを知るために、三井不動産本社下にある広場で開催したイベントで、テストマーケティングを実施。提案するという〝点〟で終わるのではなく、マーケティングという〝線〟まで繋げられたのは良かったですね」

スタートアップだけでなく、大手企業ならではの悩みにも「&mog by Mitsui Fudosan」として一役買うこともあった。

「ある大手企業が作った植物性食品なのですが、新規事業チームで試作品は作ったけれど、上層部に対してアピールする根拠をどう集めるか? という悩みがありました。そこでトップシェフの方に食べ比べてもらう試食会を行いました」

日本橋の老舗を始め、パートナー企業との連携から一流店のシェフにも繋がりを持つ&mogの強みが発揮された例だった。

「試食会では味に対する意見はもちろん、飲食店に卸した場合であればこういう形状なら調理の幅が広がる、といった提案もいただきました」。さらに、企業のラボで検証した結果を実店舗で確認するという側面もあったという。今までは開発してもそこまで踏み込んだ検証を行ったことがなく、それが貴重な答え合わせの場となったのだ。

「大手だからといって、全ての部署が潤沢にリソースを持っているわけではない。そこを僕らが補うことで、やろうとしてできなかったこと、やっていて困ったことを助けるきっかけになればいいですね。スタートアップでも大手企業でも、リソースに困っている人を助けるというのが&mogの活動の肝だと思っています」

この一年で「&mog by Mitsui Fudosan」のパートナー企業は100社を数えるようになり、多くのプレイヤーとの連携も強固になってきたという。例えば、農林水産省や経産省、地方自治体などの行政機関。民間企業では日本を代表する大手食品メーカーから、できたばかりのスタートアップ。さらに事業支援には欠かせない金融期間やコンサルティング企業など、パートナーは多岐の業態にまたがって広がっているという。   

「本当にいろんなプレイヤーがいます。そのなかで、この先は海外展開ということも考えています。もちろん、まだ具体的に何かしらの計画があるということではありません。しかし、スタートアップのなかには海外展開を既に始めているパートナーもいますので、そういったノウハウも連携して、徐々に海外展開できるチームが作れていけたらいいと思っています」

「&mog by Mitsui Fudosan」として今後、実現していきたい事業について話す三井不動産株式会社日本橋街づくり推進部事業グループ・吉田貴信さん。

こうしたパートナーは飛躍的に増えてきたものの「&mog by Mitsui Fudosan」では数を増やすことが目標ではないと、吉田さんは明確に言い切る。

「パートナー企業の関わり方には2種類あって、僕らと一緒に食の産業創造プロジェクトを推進していく方達と、その支援を受ける方達に分かれています。支援を受ける側はどんどん増えてっていただきたいのですが、一緒に支援を行うパートナーに関しては少人数制といいますか、そんなに数が多くなくてもよいのではないかと感じています。

今のところ、そういった支援サイドとして密にコミュニケーションとっているパートナーは10~20社くらいなんです。同じビジョンを持っていて、それぞれに得意な分野があるパートナーをこの1年でチームアップしてきた。そのより良いチームを、いかにこれからもっと整えて、維持していけるか?  というのが&mog by Mitsui Fudosanというプロジェクトの価値に繋がっていくと信じています」

こうしたつながりの深いパートナーの協力のもと、次のステップではより具体的な事業化が目指されるという。

「この1年は、そもそも&mogの取り組みが事業として成り立つのか? という仮説検証みたいな部分もありました。これからは思い描くビジネス像をしっかりもって、その実現を進めたいと考えいます」

その成果は少しずつだがあがってきている。社内での理解が深まったことにより、「&mog by Mitsui Fudosan」への期待は高まっているという。

「今は社内からとても多くの相談をいただくようになっています。本業は不動産業ですのでオフィスを借りていただくことが重要ですが、オフィスの空間だけでは賃貸条件だけでその価値を判断されがちです。そこに&mogの活動が付加されることで〝三井不動産のオフィスに入ると色んな事業開発を支援してもらえる、だから居続けよう〟と考えていただく可能性がある。

例えばお菓子メーカーさんが入居されているとしたら、今までは〝ビルのテナントさん向けにファミリーセールのような販売イベントができますよ〟という提案くらいでした。それはどこの不動産会社でもできることですよね。ですが&mog by Mitsui Fudosanの取り組みは我が社独自のものなので、そのメーカーが進めている新規事業の開発を〝こういうスキームで支援できますよ〟と言える。こうしたユニークな提案ができるようになってきたのです。そこを見込んで、社内からも色々とご相談をいただいています。

スタートから1年経って、桃太郎で言えば犬と猿とキジが集まったというところです(笑)。ここからは、鬼ヶ島に上陸して、どう連携して動けるのかを、検証しつつ戦う一年にしたいですね」と吉田さん。2年目を迎える&mogの今後に、注目したい。

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