vol.8 日本橋に〝食のゲームチェンジャー〟が集結! 日本最大級のフードテックカンファレンス 「SKS JAPAN2024」開催レポート【三井不動産 ✕ UnlocX】

コンセプトの設計から都市実装まで、ワンストップで食の事業開発をサポートするプラットフォーム「&mog by Mitsui Fudosan」。今春、日本橋を拠点にスタートしたこのプロジェクトのキーワードは〝街で育む、未来の食〟。三井不動産が食に関わるパートナー企業と共に、新たなイノベーションを生み出すためのさまざまな活動を行なっています。
「&mog王国」では毎月開催されるプロジェクトのイベントや最新ニュースをご紹介。日本橋から始まる新しい食の潮流をレポートします!

食の事業創生プロジェクトとして
「&mog by Mitsui Fudosan」も登壇!
異業種だからこそ可能な共創を考える
10月24日(木)から26 日(土)の3日間に渡り、日本最大級のフードテックカンファレンス『SKS JAPAN2024』が東京・日本橋で開催された。第7回目となる今年は、多岐に渡るテーマを掲げて国内外から集った約100名の登壇者による44のセッションが繰り広げられた。
第1日目は世界のフードテックのトレンドや概要などの全体像からスタートし、2日目は世界的な食の課題である代替プロテインがAIによってどう変わるのかといったアメリカの最前線、国内食品メーカーによる新たな共創モデルへの挑戦など、より具体的な方向へと切り込んでいった。最終日の3日目にはさらに、世界最大の小売企業であるウォルマートの創業家が立ち上げたウォルトン・ファミリー財団が目指す再生農業の向かう先や日本の食料安全保障課題の解決といった未来へと目を向けたものが中心となった。また小グループによる濃密なディスカッションもが行われた。
そして『SKS JAPAN』が特徴的なのは、こうしたセッションだけでなく、大きく3か所に設けられた展示会場の充実度にもある。会場となったコレド室町テラスでは、昨年の約2倍という40社が新技術・新サービスなどを展示。このほか、10月26日(土)〜27日(日)には日本橋・仲通りで一般生活者も参加可能な「食のみらい横丁」を開催し、日本橋を行き来する人々を楽しませた。
また、今年からは「世界のスタンダードに挑戦する、日本発のプラントベースド技術を体感する一夜!」やイノベーティブイタリアン『H1』 (エイチワン)の堀江シェフが手がける「うまい。だから未来へ繋がる」 など、ユニークな連動イベントも立ち上がり、「食の未来」を考えるカンファレンスは大きな広がりを見せた。


メインとなるセッションのトップバッターとなったのは、『SKS JAPAN 2024』を主宰する株式会社UnlocX(アンロックス)代表で、 『SKS JAPAN』の日本開催に尽力した立役者でもある田中宏隆氏、米国で始まったグローバル・フードテック・サミット「SKS」の創設者である、米・The SpoonのCEOマイケル・ウルフ氏だ。
会場を埋めた多くの参加者が待ち受ける中、楽しげなドラムの音と共に壇上に現れた二人。「2017年から『SKS JAPAN』をやってきて、毎回強化してきていますが、マイクはいつも〝日本の強みはコミュニティの力がすごいことだよね〟と言ってくれます。今年もそれを生かしつつ盛り上げていきたいと思いますので、よろしくお願いします!」と田中氏が口火を切った。
その田中氏の熱弁をニコニコと聞き入っていたマイケル・ウルフ氏からは、グローバルな視点から見たフードテックのトレンドなどが語られた。このほかにも多様なレストランテクノロジーの話題、発酵ベースの製品を使用する可能性のあるハイブリッド製品への関心の高まりなど、これからのフードテックを支える話題が次々と繰り出されると、参加者は興味深く聞き入っていた。
このトップカンファレンスの後には、『世界のフードシステム革新全体像と日本の役割』、『日本発”食産業”革命は実現できるか?』『キッチンOSの進化』など、初日にふさわしく大きなテーマのカンファレンスが続き、400人以上が参加する熱気の中で、フードテックの未来への期待値を高めることとなった。期間中はこうしたセッション以外にも、来場者と登壇者が交流するラウンドテーブルなど多様なプログラムが用意され、〝聞くだけできなく、全員が参加するカンファレンス〟であることを示した。

「&mog by Mitsui Fudosan」は2日目の午後に登壇し、『街づくりを通じた食の産業創造』をテーマとしたカンファレンスを実施。登壇したメンバーは、日本橋街づくり推進部(三井不動産株式会社)から同部部長の七尾克久氏、グループ長の菊永義人氏、株式会社シグマクシス・インベストメントの柴沼俊一氏、株式会社三菱UFJ銀行の営業部長小杉裕司氏、モデレーターの田中宏隆氏の5名だ。
このセッションは、三井不動産がなぜ食のイノベーション創出プロジェクトを推進するプラットフォーム「&mog by Mitsui Fudosan」を立ち上げ、日本橋を「食べる場」だけでなく、「食のイノベーション創出の場」へ進化させようとしているのか? というテーマからスタート。
「今回はSKSパートナーディナーなど様々なシーンを含めて、三井不動産の方々にはプラチナパートナーとしてサポートをいただいています。&mog by Mitsui Fudosan、これもなかなかにユニークな取り組みですね」と最初に田中氏が語ると、菊永氏がそれを受け
「ありがとうございます。 三井不動産は街づくりをしている会社で特にこの日本橋界隈に注力しています。そもそもどうして街づくりと食が関係するのか? と疑問に思っていらっしゃる方もいるかと思いますので、そこについてもご紹介したいと思います」と続けた。
「私達も「&mog by Mitsui Fudosan」のプロジェクトに多面的に関わらせていただいていますが、 昨日発表したフードイノベーションマップの中でも、かなり都市や街づくりと食の進化、食の社会実装が連動していると解説しています。また、世界中でその競争拠点づくりや「都市と街」、「都市と食の関係」というものが実は今、非常に注目されてきています。 初日(10月24日)には、気候変動に立ち向かうグローバルな食のネットワーク作りに取り組むイタリア・Future Food Instituteの代表サラ・ロベルシさんに登場いただいたカンファレンスがありましたね。100歳以上の長寿地域を輩出しているイタリアで、環境にとってRegenerative(リジェネラティブ/再生可能)、人間にとってLongevity(ロンジビティ/長寿)を実現するようなフードシステムの実現に向けた取組みが始まっているとご紹介しました。世界中でそのような流れがある中で「&mog by Mitsui Fudosan」のプロジェクトも注目されています。それでは菊永さんから、活動を紹介していただきましょう」

田中氏からの導入を受け、菊池氏からはプロジェクトの具体的な内容が語られた。
「当社は今年の3月に、街づくりを通じて食の事業開発を支援するプラットフォームとして、「&mog by Mitsui Fudosan」をリリースさせていただきました。これは、当社グループが持っております商業施設やマンションのようなハードアセットを上手く使いつつ、このプロジェクトで連携しているパートナー企業の皆様と一緒に、ハードとソフトの両面から食の事業開発を支援していこう、というものです」
ひとことで〝事業開発〟と言っても、そのプロセスは多岐にわたる。新規事業の立案や事業コンセプトの設計、試作品の製作、テストマーケティング、さらには事業化決定後の販路の拡大や都市への実装まで、すべてに寄り添って行うと菊永氏は説明し、プロセスの具体例を交えてわかりやすく解説を加えた。
「例えばですが、試作品ができたので味を評価して欲しい、という方がいらっしゃいます。そんな時は界隈のシェフをアサインし試食会を実施したり、 あるいは一般生活者の方や小売店のバイヤーを集めた試食会を行ったり、ご要望に合わせてパートナーシップの企業の方々と連携して対応していきたいと考えております。他にも事業化する前にテストマーケティングをしたい、というご相談をいただくこともあります。その場合は当社が運営している商業施設を活用し、 アンケートを集めるような機会を提供したり、場合によってはそのアンケートの収集業務自体を我々の方で代行することも考えています」
事業開発支援でこれまで取り組んできた事例についても、資料を交えて詳しく紹介された。その一例を下記に箇条書きで紹介しよう。
「&mog by Mitsui Fudosan」事業開発支援の一部の事例紹介
1_三菱電機が扱う自律走行ロボットを使用したオンラインデリバリーサービス支援。日本橋町会との調整、ロボットの保管場所や充電場所として三井不動産が持っているオフィスビルの提供。
2_慶應義塾大学発のベンチャー企業であり、納豆菌を活用した新食材に取り組むフェルメクテス株式会社への支援。ユースケースの開発と生活者調査の実施、「&mog by Mitsui Fudosan」として料理教室を主催する料理家と連携したレシピの開発や提案、試食イベントの開催からアンケートの収集など。
3_プラントベースで明太子の食味食感を再現した商品を、日本橋のレストランでパスタメニューとして開発し、提供。
4_食器用洗剤のマーケティング支援で、三井不動産グループが開発したマンションの居住者を対象にサンプリングを行う。
「自律走行ロボットのオンラインデリバリーサービス(1)では、日本橋エリアで我々が持っているリレーションを活用し、環境づくりで最新技術を街に都市実装するサポートしました。また2や3は次世代食材ですが、これについては認知獲得に苦戦するメーカーさんがとても多いと聞いております。我々のプロジェクトではこのプラントベースの明太子を飲食店でメニュー化することで認知を獲得し、商品に対するフィードバックを得る支援ができました。また4のマーケティング支援については、個別のマンションでサンプリングをすることで、エリアによって属性が変わる居住者を効率的にターゲットに据えたリサーチをかけることができました」と、菊永氏からは補足のコメントも。
こうしたソフト面だけでなく、ハード面も含めて支援できるのが「&mog by Mitsui Fudosan」の強みだとも強調する。「「&mog by Mitsui Fudosan」の推進にあたり、大変多くの方から、食の研究開発拠点になる本格的な研究開発ができる設備が物足りないという声や、自社ではなかなか整備が難しい、という話をお聞きしました。 このような課題に対して、あらかじめ設備を取り揃え、入居するだけで研究開発を開始できる、そんなラボの開設も予定しております」(菊永氏)。

このプロジェクトについては、三菱UFJ銀行もパートナー企業となっている。一緒に登壇した三菱UFJ銀行の小杉氏はその意義をこう語った。
「当行ではこの2年半ほど〝フードトランスフォーメーションプロジェクト〟というものをやらせていただいていて、食に関する様々な社会課題に真剣に取り組む企業と活動をしております。そこから色々な輪が広がってきて、今回は三井不動産さんとご縁を結ばせていただき、とても楽しみにしております。〝&mog by Mitsui Fudosan〟が掲げている〝街づくりと食〟というのは、私どもがやりたいテーマそのものでしたので、これは本当にありがたいご縁だなと。財閥の壁を越える、という一面もあろうかと思いますので(笑)、その勢いや話題性を、逆にレバレッジして盛り上げていきたいなと思っています」
また後半は七尾氏から「&mog by Mitsui Fudosan」が目指すべき未来への取り組みも語られた。

「プロジェクトとしての産業創造をさらに超え、テクノロジーイノベーションを超えて、カルチュラルイノベーションを日本橋、八重洲の世界に生み出し、それが世界に出ていくっていうところまで野望を持ってもいいんじゃないか? と考えてますし、それが我々の役割だと思っております」
これを受けて「様々なことを社会実装していけるというこのプラットフォームは本当に素晴らしい。このお話があった時から、具体的なアイデアがどんどん浮かんでくるので、我々も一緒にこのプラットフォームにいろんな新しいものをのせていきたいですね。〝一緒に街を作っていく〟という壮大なプロジェクトに協力していければと思います」と小杉氏も意気込みを語った。
国内の活動だけにとどまらず、日本橋がグローバルなフードイノベーションの「目的地」となることを目指すために、今後の共創の推進や「&mog by Mitsui Fudosan」の展開についてなど、多岐に渡る意見交換が進んだ。
■クレジット
text:Jun Okamoto
photo:Yoshiko Yoda