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vol.4食を起点とした課題を共有し繋がりを生み出す産学官が集結するミートアップイベントを開催

左から、モデレーターを務めた海野慧さん(Sustainable Food Asia 株式会社代表)、立命館大学で起業家支援プラットフォームRIMIX創設に携わった酒井克也さん、閉鎖循環式陸上養殖に取り組む株式会社ARKを立ち上げた竹之下航洋さん、広島で日本酒を原料とした新しい蒸留酒づくりに取り組むナオライ代表・三宅紘一郎さん。

コンセプトの設計から都市実装まで、ワンストップで食の事業開発をサポートするプラットフォーム「&mog by Mitsui Fudosan」。今春、日本橋を拠点にスタートしたこのプロジェクトのキーワードは〝街で育む、未来の食〟。三井不動産が食に関わるパートナー企業と共に、新たなイノベーションを生み出すためのさまざまな活動を行なっています。

「&mog王国」では毎月開催されるプロジェクトのイベントや最新ニュースをご紹介。日本橋から始まる新しい食の潮流をレポートします!

食マネジメント学部が食関連業界にもたらすものは何か?
八重洲ミッドタウンに立命館の卒業生・在校生が集結!

ここ最近、大学のトレンドとして広がりをみせているのが農業や食などをテーマとするグリーン学部。その先駆けとなったのが、2018年に立命館大学が設立した食マネジメント学部だ。

これまで大学の食を扱う学問といえば、家政学や管理栄養士など専門的な分野に特化していた。そうした個々の専門家をたばね、俯瞰で見られる“オーケストラの指揮者”のような存在を育てようというのがこの学部の目的だ。

背景には、食の分野において世界に通用する人材が日本ではまだ少ないことがあげられている。海外へ進出した食関係企業が、食をビジネスとしてマネジメントできるスキルがないため撤退する傾向にあるという。そこで食マネジメント学部では経済学、経営学を基盤に、食の人類的な課題解決に寄与できる人材育成をし、未来の日本の食産業に貢献しようとしている。

食のイノベーションを創出するプラットフォーム「&mog by Mitsui Fudosan」が今年3月に始動したことをきっかけに、三井不動産とこの立命館大学、Sustainable Food Asiaがコラボしたトークイベント『Sustainable Food Night』特別編が5月16日に行われた。参加者は、立命館大学の卒業生・在学生を中心に、食関連企業、食を対象にした投資事業者など。世代を超えて食のイノベーションにアンテナを張る50人ほどのメンバーである。「&mog by Mitsui Fudosan」としては、パートナー企業である立命館大学と連携したこのイベントで食の発展を盛り上げるともに、社会人と学生をつなぐ役割も担っていきたい、という意気込みがある。

2022年からアジア域から世界に向けて、持続可能な食産業を生み出すためのエコシステムづくりにコミットしている海野さん。

この日、モデレーターを務めたのは立命館大学の卒業生であり、日本・アジアのフードテックスタートアップをつなぐ「Sustainable Food Camp」などを運営する海野慧さんだ。2020年、CarpeDiem(カルペディエム)株式会社を創業した海野さんは、アジアからサステナブルな新しい食産業のエコシステムを創るため、Sustainable Food Asia(サステナブル フード アジア)株式会社を立ち上げた。現在はジャックフルーツから生まれた新食材・フルーツミートの展開、フードテック領域の様々な企業のアイデアやサービスを紹介する施設「Sustainable Food Museum 」を運営するなど、幅広く活躍している。

大学職員の酒井さんはビジネスを通じ社会課題を解決する「インパクト・メーカーの育成」をコンセプトに、2019年のRIMIX創設に携わった経緯を発表。

パネラーには、いずれも立命館大学の卒業生という個性的な3名が選ばれた。

立命館大学から登壇したのは、財務部部長の酒井克也さんだ。立命館大学では、経済的リターンだけでなく、社会へ与えるインパクトを重視した「立命館ソーシャルインパクトファンド(RSIF)」を立ち上げている。その投資先には食関連のプロジェクトが少なくないが、酒井さんはRSIFの立ち上げから加わり、力を注いできた立役者の一人だ。「大学の本分は人材を育てることにありますが、資産運用の仕事も必要です。そこでこの二つをどうにか紐づけられないかと考え、生まれたのがRSIF。資産を運用しながら社会に貢献する事業に投資できますし、大学には学生、研究者といった様々なプレーヤーがいて設備も整っているので、環境を活用できます」と話す。

「養殖の民主化」をミッションに掲げる竹之下さんは、RIMIXを活用した企業の経緯を発表。

もう一人の登壇者である株式会社ARK(アーク)代表取締役・竹之下航洋さんは、電子制御工学、メカトロニクスを学んだ後、立命館大学に編入しロボティクス及び生体工学を専攻。2020年にARKを共同創業し、「どこでも誰でも水産養殖ができる仕組み」という閉鎖循環式陸上養殖システム「ARK」を開発した。ミッションは「養殖の民主化」と話す。

「日本酒文化を未来へ繋ぎたい」という思いから2015年に起業した三宅さん。

広島から参加した三宅紘一郎さんは、ナオライ株式会社代表取締役。親族に酒蔵関係者が多かったことから日本酒に興味を持ち、中国で日本酒を売ろうと孤軍奮闘。そこで学んだことを糧に、世界に通用するものを造りたいと酒蔵を設立し、新しい酒「浄酎(じょうちゅう)」を生み出した。「浄酎」は特許を持つ独自製法で、熱を加えずに日本酒からアルコールを抽出した酒。日本酒の香りや旨みをピュアに取り出し、水分だけを抜くことで、ウイスキーのように時間の経過で深みを増す、新しい日本酒の価値を見いだした。

ユニークなアイデアや技術で、食の問題に取り組むこの4名のトークセッションは楽しいかけあいの元に繰り広げられた。テーマは〝立命館大学としてなぜ食の課題解決に挑むのか〟〝食マネジメント学部の設置が、食関連業界にもたらす可能性や理想とする産学連携の在り方について〟など、それぞれの立場から意見が立ち上がり、参加者も興味深く聞き入っていた。

「この度、三井不動産さんに一緒にやりませんかとお声がけいただき大変ありがたく思いました。三井不動産さんが食のイノベーションを支援するプロジェクトに我々も参加することによって、食にまつわる仕事をする卒業生や現役の学生達を巻き込んで、これからも様々なことをやっていきたいと思います。そのために今日はまず繋がりを作りたい、ということで相談させていただき、集まってもらいました。ここから一緒に食の発展を盛り上げていきたいと思います」と酒井さん。

また、立命館の出資先には食関連企業が多いが、そこには狙いはあったのか?という問いに対して、酒井さんは「特に意図はなく、結果論なんです。社会的課題に取り組む事業に投資するというインパクトファンドであること、食に限らず卒業生の応援をしたいと考えていますが、結果としてそうなったのは、やはり食産業がもっている可能性がそれだけ大きいということでしょうね」と答えた。

「食関係には約百兆円の市場があると言われています。食の付加価値化も含め、まだまだ多くの伸びしろがあるでしょう」と海野さんも言葉を続ける。また、大学との連携がどうあるべきかという話に及ぶと「大学と共同する取り組み例といえば、サイエンスの部分だけ、ということが多いでしょう。立命館ではビジネス面をきちんとみるとか、社会課題をどう解決するかなど、学部をまたいでトータルで取り組んでいけるだろうと考えています」と竹ノ下さんはいう。「立命館を一つの村ととらえて、実証実験ができるといいですね。世界には多くのイデオロギーがあるので、こんな世界はどうでしょう、という問いかけからスタートできたらいいですね」というのは三宅さん。

「食に限らず、スタートアップだけでもなく、これからは多くの人たちといろんな形で関わっていけるはずです。大学はそれに応えられる組織であるべきなのです」と酒井さん。産官学の連携に新しい視点が取り入れられることで、楽しみな変化が起こっていくだろうと4人それぞれに期待を持っている。

ネットワーキングタイムを彩ったのはスタートアップが手掛ける新食材を使用したディナー。
竹之下さんのヤイトハタや三宅さんの浄酎も提供された。

トークセッション後は、参加者が小さなグループに分かれて意見をシェアするディスカッションの時間も設けられ、はじめましての人脈作りが和やかに行われていた。そして〆の親睦会では、パネラーの企業を始め「&mog by Mitsui Fudosan」のパートナーである12社のスタートアップ企業の商品を駆使したディナーがずらりと並んだ。

例えば、UMAMI UNITED JAPAN(ウマミユナイテッドジャパン)株式会社が手がける植物性原料100%の「UMAMI EGG」を使ったフリッタータ、海藻の陸上・海面栽培を行なっている合同会社シーベジタブルの「すじあおのり」は、季節の野菜とフリットになって登場。テーブルマーク株式会社 BEYOND FREEの「おからこんにゃくで作った からあげ」や株式会社AlgaleX(アルガレックス)の「うま藻」を使って焼いた鶏もも肉など、ボリュームのある料理も登場。マレーシア・Nomatech Sdn Bhd.の「赤米」と、Nanka Sdn Bhd.と連携し、フルーツミートとして日本で展開するフルーツミートしぐれ煮を使ったおむすび、株式会社Agriture(アグリチャー)が手掛けるブランド・OYAOYAの乾燥野菜を使ったスープも好評だった。

カルパチョとして提供された株式会社ARKの「ヤイトハタ」は、養殖とは思えない味わいがいいという評判を得ていた。ナオライの浄酎をオーク樽で熟成させた「浄酎-金紙垂」、オーク樽で熟成させて無農薬のレモンの皮を漬け込んだ「琥珀浄酎」も行列ができるほどの大人気。 おいしい料理を食べながらの親睦会は、和気あいあいとした雰囲気で終了した。

食産業を〝ワンチーム〟へ
垣根を越えてプレーヤーを繋げる「Tokyo Food Meetup」

三井不動産が運営を手がける日本橋のオープンスペース「+NARU NIHONBASHI」

こうしたイベントと並行して開催されているのが、食産業のプレーヤーが業界の垣根を越えて交流する「Tokyo Food Meetup」だ。これは食のスタートアップや日本橋の飲食関係者、企業の新事業を手掛けるチームなど、選りすぐりのメンバーで行うコミュニティ作りの場である。この日、開催された第6回目は、三井不動産が手掛ける日本橋のオープンスペース「+NARU NIHONBASHI by MITSUI FUDOSAN」が会場となった。施設名のNARU(ナル)とは、成る(何かができあがる)、為る(何かになる)、鳴る(世間に知られる)といった意味を重ねたネーミング、ここから人や街に、様々な思いやできごとがさらに加わっていって欲しいという願いを込めて、+NARU(プラスナル)と名付けられたという。

参加者は、ASTRA FOOD PLAN、CANEAT、デイブレイク、テックマジックというスタートアップ4社のほか、三菱UFJファイナンシャルグループ、三越伊勢丹ホールディングス、吉野家ホールディングスといった大手企業からも集まった。総勢15人ほどで、よりカジュアルで親密に親交が深められる会となった。

食に関するスタートアップ企業や投資家、店舗オーナーなど多彩なメンバーが集まるミートアップイベント。

オープニングでは、4月にスペインで開催された欧州最大級のフードテックイベント『Food 4 Future』の視察報告が「&mog by Mitsui Fudosan」のパートナー・株式会社シグマクシスにより行われた。約170のカンファレンス、1万人の参加者、500人近い登壇者が会する『Food 4 Future』は、日本からの参加者も多く、海外から日本の食産業への注目度が高まっていることを実感したという。今、日本の食産業に何が起こっているのか、日本からの提案を紹介するセッションも行われ、人気を博したという。また欧州では同じ分野のイノベーター同士が競合するのではなく、手を取り合ってうまくコラボレートする仕組みが築かれている様子がレポートされ、そこから日本も学ぶべきと締めくくられた。この後は、4つのスタートアップのプレゼンテーションと“飲食店の課題解決のためのテクノロジー”をテーマにトークが行われた。

日本橋飲食店とフードテックスタートアップの
相互理解と出会いの場

食物残渣をアップサイクルし、新しい付加価値を生み出すASTRA FOOD PLANの発表に聞きいる参加者。

この日、プレゼンテーションを行ったのは次の4社だ。

ASTRA FOOD PLANは、過熱蒸煎機を用いて「かくれフードロス」として毎日大量に廃棄される食材を、おいしく安全で、栄養価の面でも付加価値の高い原料として乾燥殺菌しアップサイクルする仕組み作りを可能にしている。同社が名付けた「かくれフードロス」とは、国内でフードロスといわれているものに含まれない、産地で出る規格外作物や食品工場から出る食品残渣などを指す。食品残渣といっても食べられるものが多いことに着目し、廃棄されていた残渣を新素材に生まれ変わらせることに成功している。例えば、吉野家のタマネギ端材から生まれた乾燥玉ねぎフレーク『タマネギぐるりこ®』は、通常のオニオンパウダーの135倍の香りがあり、栄養価も高く、市販されるなど注目されている。

飲食店向けのアレルギー管理システムを紹介するCANEAT代表・田ケ原さん。

「外食でのアレルギー事故をなくし、宗教や体質にかかわらずすべての人が平等に食を楽しめる環境をつくること」をミッションとするCANEATは、アレルギーヒアリングシステムとアレルギー管理サービスを提供している。アレルギーヒアリングシステムは、修学旅行やウエディングなど、団体会食のゲストのアレルギー情報を事前に直接入力できるシステム。個別の食事制限の情報を正確に把握し、業務の効率化と事故防止に役立てることができる。

アレルギー管理サービスはアレルギーを判定し、アレルゲンごとにメニューや加工品を検索できるアプリサービスだ。スマートフォンで原材料ラベルを撮影すると、アレルギー情報を正確に表示できる。人間が判断すると間違いやすい表記も正確に自動判定できる優れものだ。大豆やアーモンドなどに代表される表示義務がないものも、原材料ラベルに書かれていないが実際には入っていることがあるという。CAN EATでは専門家の目視チェックに加えて、必要に応じでメーカーへの確認を代行するなどし、正確な判断ができる。また手軽に行えるため、時間がかかるアレルギー表やビュッフェカードの作成作業を効率化できるのもメリットだ。

特殊冷凍技術を軸とした事業展開をプレゼンテーションするデイブレイクの富山さん。

特殊冷凍機「アートロックフリーザー」を開発、提供するのはデイブレイクだ。独自に開発した同製品は、食品にダメージを極力与えないマイクロウインドシステムにより、冷凍による風味の劣化を防ぎ、鮮度や食感を保つ。例えば、真鯛の刺身などは従来の冷凍では風味が大きく損なわれるが、「アートロックフリーザー」ならば〆たてのコリっとした食感を保ち、限りなく生に近い味わいを保つ。さらに「アートロックフリーザー」で冷凍することにより、生の25%以上も旨味が増すことが分かっている。つまり“生よりおいしい”を実現するのだ。「アートロックフリーザー」を生かすための正しい保存方法や解凍方法、特殊冷凍を生かしたビジネス設計など、ソフトの側からのコンサルティングにも力を入れているという。

TECHMAGIC株式会社 事業推進本部の内田さんは、最新の調理ロボや実店舗での導入事例を紹介。

調理ロボットのパイオニア・テックマジックは炒め調理ロボット「I-Robo」の開発で知られている。I-Roboは、炒飯や野菜炒めといった、加熱の具合や温度管理が難しい調理を、熟練の職人の技を再現しながら行うことができる。調理によって変わるフライパンの回転スピードや回転の方向も柔軟に調整できるところが優れもの。調理後のフライパンの洗浄までが自動化されており、食に携わる企業の多くが直面する、人手不足の課題解決に貢献している。

プレゼンテーションの後は、この4社を交えて「飲食店のかかえる課題解決のためのテクノロジー」といったテーマで自由にディスカッションが繰り広げられた。

「Tokyo Food Meetup」は、日本橋を拠点とする新しいコミュニティの場として、今後も定期開催を予定。日本橋で生まれるコミュニティが〝ワンチーム〟となり、食の未来を創る礎を築くことが期待される。

■クレジット
text:Jun Okamoto
photo:Yoshiko Yoda

【Sustainable Food Asia×立命館大学×三井不動産】
【Tokyo Food Meetup】

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