vol.15 サブスクで伝統工芸の器と飲食店を繋げ。日本橋から食と器の新たな関係性を発信【三井不動産 ✕ CRAFTAL】

工芸品の利用機会を広げて伝統産業の継承に貢献したい

日本全国の窯元・陶芸作家が手掛けた和食器を、飲食店などに定額で貸し出すサブスクリプションサービス「CRAFTAL(クラフタル)」。問屋街として発展した日本橋エリアにギャラリーを構え、伝統工芸品の作り手と、使い手である飲食店を繋ぐ新たなプラットフォームとして2019年にスタートした。
最大の特徴は、プロのスタイリストが厳選した和食器を、飲食店のコンセプトや料理に合わせて気軽にレンタルできること。最短1ヶ月から利用可能で、気に入った器は継続利用したり買い取ることもできる。現在はミシュラン一つ星店をはじめ、都内の和食店を中心に約80店舗で導入されている。
こうした実績が評価され、今年4月に開催されたフードテックイベント「Food Tech Venture Day NEO Vol.2─日本の伝統×テクノロジー」では、「&mog賞」を受賞。食のイノベーション創出を推進する「&mog by Mistui Fudosan」との共創にも期待が高まる。
「工芸品の作り手と使い手である飲食店、それぞれが抱える課題を解決したいと思いCRAFTALを立ち上げました」
そう話すのは、CRAFTALを運営するCulture Generation Japanの代表取締役・堀田卓哉さん。堀田さんは、外資系企業に勤めた後、コンサルタントとして企業再建プロジェクトなどに参画。2011年にCulture Generation Japanを設立し、伝統工芸品のブランディングや販路開拓などを通じて日本文化の継承と創造に取り組んでいる。
「東京・浅草の提灯職人に『僕たちの仕事はモノを作るだけじゃない。伝統と文化を守り、さらに良いものへ進化させて次世代に受け継ぐ。そういう仕事なんだ』と言われ、工芸産業の奥深さに魅せられ、会社を立ち上げました」と堀田さん。そのなかで、伝統工芸品は金額の高さがネックになり、欲しい人の手に渡りにくいという現実に直面したという。
「窯元を訪ねると、これめっちゃいい!という工芸品が埃をかぶって無造作に置かれていたりするんです。実際、伝統工芸品の産地では人材や後継者不足が深刻で、生産額は最盛期の約2割にまで落ち込んでいます。そんな状況を目の当たりにして、『こんなに素晴らしい技術があるのに、活かされていないのはもったいない。眠っている商品を世に出せないか』と考えたことが、CRAFTALを始めるきっかけになりました」
一方、飲食店を開業する際には、工芸品など高品質な器を買い揃えるために多大なコストがかかる。既存の店舗でも「器にこだわりたいけれど、どこで購入すればいいのかわからない」「店の雰囲気に合う食器を探すのが大変」「季節ごとに食器を変えたいが、使わない期間に保管しておくスペースがない」など、器にまつわる悩みは尽きない。
「CRAFTALでは、大皿や小皿、お椀、茶碗などすべての和食器を1枚あたり月額1000円でご利用いただけるので、開業時の初期コストを大幅に抑えることができます。実際に料理を盛り付けてイメージと違った場合でも、好きなタイミングで交換・返却ができますし、収納スペースの効率化にも繋がります。様々な器を気軽に使えることで料理の表現の幅が広がったというお声もいただいており、料理人のモチベーション向上にも貢献できていると感じています」



CRAFTALには常時約300種類の和食器が用意されている。これらは、工芸品に精通している専属のコーディネーターが、料理人のニーズに沿って厳選したものだ。器の選定にあたっては、使いやすさに加え、店舗での保管が難しい形状の器や、季節感が強く使う頻度が限られるもの、希少性が高く一般に流通しないものなど、レンタルならではの価値がある点も考慮されている。さらに、飲食店から料理のイメージをヒアリングしてそれに合う器を提案したり、要望に応じて工房にオーダーメイドで依頼することもあるという。
「一般的に食器は問屋を介して売買されるため、作り手は自分の器がどこでどう使われているのかほとんど知らないんです。そこで、飲食店からの要望や使用感などを私たちがフィードバックし、商品づくりに活かしていただいています。併せて、飲食店には器の産地や作り手の情報をお伝えしていますので、来店されたお客様に器にまつわるストーリーをお話しできると好評です。工芸品の利用機会を広げ、より多くの方に産地や作家の個性を知っていただくことで日本の伝統文化を継承していく。これがCRAFTALの仕事の本質です」
昨年12月からは、CRAFTALのサービスをベースに「物語のある、お皿たち」をコンセプトとした新たなプロジェクト「旅皿」を始動。これは、CRAFTALのリースアップ商品を中心とした二次流通事業だ。
「CRAFTALの器は、一流レストランを巡りながら料理人たちの元で思い出を刻んできました。『旅皿』は、そうした付加価値のある器を一般ユーザーに販売し、次の持ち主へとバトンを渡す仕組みです。これまで器専門の二次流通マーケットは存在せず、多くは廃棄されていましたが、器の物語を伝え紡いでいくことで新たな価値を生み出し、伝統工芸の持続可能性を高めたいと考えています」

三井不動産の食の研究開発支援施設「&mog Food Lab」でも、今年4月からCRAFTALを導入。レンタルした器は入居企業による試食会やメニュー撮影などで活用されている。&mogとの共創の展望について、堀田さんは次のように語った。
「現場の声を聞いていると、若い料理人たちは工芸品の器について学ぶ機会が少なく、窯元や作家も料理人との接点がほとんどないのが実情です。今後は、&mogのネットワークを活用して、日本橋の飲食店と器の作り手が料理と器の相性について意見交換できる場を設けたい。さらには、両者が協力してメニューを開発するような取り組みも実現したいですね」
Culture Generation Japanの本社機能とCRAFTALのギャラリーがある「TOIビル」は、江戸時代から問屋街として発展してきた日本橋横山町の古いビルを同社がリノベーションし、2022年に誕生した複合施設だ。飲食店、物販店、ワークスペース、イベントスペースで構成されており、それぞれのフロアで器を通した人と地域の在り方を探究している。
「例えば、1階のカフェ&バルでは、CRAFTALで取り扱う日本各地の器を使って料理を提供し、実際に器に触れながら食を楽しむという、この場所ならではの体験が可能です。TOIビルのコンセプトは、これからのクラフトを変える新たな“問い”を立てること。日本の工芸が持つ伝統や技術を現代の暮らしに届けるため、人とモノ、人と人、産地と生活者・事業者を繋ぐ場にしたいと思っています」
以前から、日本橋エリアで仕事を始めたいと思っていたという堀田さん。古くから日本の商いを支えてきた日本橋は、地域と東京、そして東京と世界のハブとしての役割を担えるエリアでもあり、日本橋で新たな食の可能性を創出する『&mog by Mitsui Fudosan』と共に食と器の新たな関係性を築いていきたいと意気込む。
目標は、CRAFTALと旅皿の二本柱で国内2000店舗での導入を目指すこと。「借りる」という新たな食のインフラを確立し、日本橋から日本の工芸品を国内外へ広く発信し続けていく。