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vol.14 「&mog Food Lab」での研究・開発が新事業発展の追い風に。“食文化の聖地”日本橋を拠点に新たな食文化創出に挑む【三井不動産 ✕ 食の会】

「&mog Food Lab」を軸に

他企業との共創も次々と実現

“食の聖地”である日本橋に新たな活動拠点ができ、自身の研究にもますます力が入ると話す長内さん。

日本橋室町にあるレストラン「食の會 日本橋」。日本の食文化史の中でも、最も大きく食の形が変化した江戸末期から明治期をテーマとし、ランチタイムには明治期に日本料理として誕生した“洋食”を、ディナータイムには当時の“最上級の家庭料理”を提供している。

同店を運営する株式会社食の会は、食文化研究家として活躍する長内あや愛さんが2019年に起業したスタートアップ企業だ。今年2月には、日本橋にオープンした三井不動産初となる食の研究開発支援施設「&mog Food Lab」に入居。ここでは食品メーカーの商品開発支援や行政と連携したガストロノミーツーリズムの推進、自社で展開する復刻菓子ブランド「文明開菓」の開発・製造などに取り組み、事業の幅を着実に広げている。

「日本橋は、かつて五街道の起点として栄え、全国各地の特産品が集まった街。現在も長い歴史と味を守る食の老舗が軒を連ね、常に発展し続けている“食文化の聖地”です。私自身にとっても、食文化の研究を進めるうえで憧れの場所であり、ここに新たな拠点を構えることができて本当に嬉しく思います」と長内さん。


長内さんは2023年から「&mog by Mitsui Fudosan」のアンバサダーを務めるほか、&mogが事業支援するフェルメクテス株式会社の共同経営者としても活動している。同社では、豊富なタンパク質を有する納豆菌と、日本の伝統的な食品技術である“発酵”に着目し、納豆菌そのものを発酵性タンパク質食品として実用化した粉末食品「Kin-pun(キンプン)」を開発。これを利用したレシピ開発や商品のテスト販売を進めるために「&mog Food Lab」への入居を決めたという。

食の会が入居する「&mog Food Lab」1階のキッチン&試食会スペース。
食の会が「&mog Food Lab」を拠点に開発・展開している復刻菓子ブランド「文明開菓」。

「近年、世界的な人口増加による食糧不足をはじめ、温室効果ガスの排出やフードロスなど、食をとりまく問題はますます深刻化しています。これらの課題解決に向けて、持続可能な新しい食文化の創造を目指して誕生したのが『Kin-pun』なんです。納豆菌は15〜30分で倍量になるため、広い土地を使わずに効率良く生産できます。今後の可能性としてトウモロコシやサトウキビなどのほか、米糠、酒粕、大豆油の絞り粕なども原料として使えるので、アップサイクルが可能な環境低負荷の食品なんです」

さらに、粉末状にしたことでさまざまな食品や料理に取り入れることができ、多様な食習慣にも対応できるとのこと。同社では、パスタやパン、うどんなど二次加工食品の開発にも力を入れている。
「事業化にあたっては、料理研究家の方にレシピ提案をお願いしたり、イベントでテスト販売を実施したりと、&mogから多大なサポートをいただきました。『&mog Food Lab』には、本格的な厨房設備や、試食会や商談などが行える交流スペースが整っており、新たな商品開発にも大きな追い風となりそうです。

長内さん率いる食の会が「&mog Food Lab」に入居して約半年。商品や試作品の研究・開発に加え、三井不動産主催イベントへの参加などを通じて、日本橋の老舗メーカーや飲食店との繋がりも深めてきた。
「生活者と接点を持つ機会が増えたのもありがたいですね。例えば、イベント時には来場者にアンケートをとり、そこで収集したデータや意見をもとに新たな取り組みに繋げる、といった具体的な成果も出ています。ハードとソフトの両面から支援いただけることも『&mog Food Lab』ならではの強みだと実感しています。

日本橋料理飲食業組合100周年を記念して開発したスペシャルドリンク。お茶をベースにし、天ぷら、寿司、鰻に合う3つのフレーバーを用意。

さらに「&mog Food Lab」に入居している他の企業との共創も行われている。その一つが、日本橋料理飲食業組合100周年を記念したスペシャルドリンクの開発プロジェクトだ。これは、江戸の三大名物料理として知られる天ぷら、寿司、鰻を取り上げ、それぞれに合うノンアルコールドリンクを商品化するというもの。同施設2階に抽出所を構えるCOLDRAW(コールドロー)株式会社がレシピを提案し、食の会のプロデュースのもと、日本橋料理飲食業組合と協議を重ねながら開発を進めているという。

「日本橋料理飲食業組合は、江戸期から続く食文化の伝統を守りながら日本橋を活気付けてきた食のプロ集団。一方、COLDRAW株式会社は、茶葉やハーブなど複数の植物素材を独自の低温減圧技術で抽出し、フレッシュで奥深い味わいのプレミアムノンアルコール飲料を提供するスタートアップ企業です。本プロジェクトは、この両者が日本橋料理飲食業組合100周年という節目の年にタッグを組み、次の100年に向けた新たな試みを広く発信することを目的としています」
完成した3種類のドリンクは、10月29日(水)〜11月4日(火)の7日間限定で、日本橋三越本店本館地下1階のフードコレクションにて販売される予定だ。

このほか、「&mog Food Lab」4階のシェアキッチンをスポット利用する企業・団体との連携も実現。今年5月には、日本橋大伝馬町で開催された「日本橋くされ市」に食の会が出店し、スタートアップ企業が同施設で試作したヴィーガンマフィンの販売支援を行った。
「食の会は『&mog Food Lab』の運営管理も担当しており、内覧や見学に訪れる様々な企業や料理人の方々と日々接しています。それぞれの事業や日本橋の食の発展について語り合う機会も多く、そうした交流も私達の大きな糧になっています」と長内さん。
過去と未来が融合したイノベーティブな街・日本橋で“食”を探求し、社会実装を通して新たな食文化を創出してきた食の会。今後の展開にますます期待が高まる。

■プロフィール
長内あや愛
おさない あやめ

食文化研究家
株式会社食の会 代表取締役
フェルメクテス株式会社 共同経営者

“和食と洋食の食文化の衝突”をテーマに江戸後期から明治期の食を研究し、文献から再現。持続可能な食文化創造を目指す。慶應義塾大学総合政策在学中、株式会社食の会起業。復刻再現料理の食事制作・提供の場として2019年に「食の會日本橋」オープン。

■クレジット
文:本間公子
撮影:依田佳子

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