vol.13 日替わりの夜ごはんとテイクアウト専用ステーションで子育て家庭を支援。「&mog Food Lab」を拠点にメニューや新商品の開発を強化【三井不動産 ✕ マチルダ】

オンラインとオフラインを融合し、
子育て家庭と社会を繋ぐ新スタイルの中食サービスを展開

三井不動産初となる食の開発拠点「&mog Food Lab」に入居している株式会社マチルダは、「子どもが無邪気でいられる社会を創る」をミッションに掲げ、食の分野から子育て家庭を支援するスタートアップ企業だ。同社が提供しているのは、手作りの夜ごはんをオンラインで注文・決済し、自宅近くの「ステーション」で受け取るという新しいスタイルの中食サービス。現在、東京都内の湾岸エリアを中心に約30ヶ所のステーションを展開し、1日あたり3500〜4000食の利用があるという。
今回は、マチルダの共同創業者である福沢悠月さんに、事業のコンセプトや詳しいサービス内容、「&mog Food Lab」に入居した目的などについて話を伺った。

同社がサービスを開始したのは2021年5月。事業化のきっかけは、同社CEOの丸山由佳さんが自身で感じた子育ての中の孤独さや、働きながら夜ごはんを作る大変さを解決したい、との想いからだったという。
「スーパーのお惣菜や冷凍食品、宅食サービスなど中食の選択肢が増えるなか、私達は“作り置きではない日替わりの家庭料理”を、自分の生活スタイルに合わせた頻度とタイミングで受け取れる仕組みを作ろうと思いました。また、子どもが無邪気に成長していく姿を社会が寛容に受け入れ、サポートすることがよりよい社会作りに繋がると考え、食体験を通して子育て家庭と社会を繋ぐ場を設けたいと考えたんです」
これを具現化したのが、夜ごはんの受け渡し場所となるステーションだ。平日の17〜20時に、住宅街や駅前、都心のオフィス街などにテイクアウト専用のワゴンを開設。ユーザーは仕事帰りや保育園のお迎えなど、日常の生活動線上で注文した品を受け取ることができる。
「当初は、配送コストが高すぎるという理由でステーションを設置したのですが、実際に運用してみると、対面ならではの体験価値があることに気づいたんです。たとえば、スタッフが『今日はシチューにブロッコリーが入っているけど、食べられるかな?』と子どもに声をかけると、それがきっかけで苦手な野菜に挑戦してくれることも。翌日に『食べられたよ!』と教えてくれる子もいます。さらには、小学校に進学した子がランドセル姿をわざわざ見せに来てくれたり、親とはぐれて迷子になった子がステーションを頼って来てくれたり……。こうして、ステーションを通じて子ども達とふれあい、“地域の夜ごはんの受け取り場所”という存在になることで、日々のちょっとした楽しみを子育て家庭にお届けする。私達が手渡し=オフラインの場にこだわる理由は、まさにそこにあるんです」


もちろん、メニューの開発にも力を注いでいる。現在750種類以上の献立があり、毎週4〜5品の新メニューが登場しているとのこと。さらに、季節のイベント料理や、外国文化を知るきっかけとなる献立なども取り入れながら、子ども達の「楽しい!」「食べてみたい!」に繋がる料理を提供している。
料理は、都内にある自社のセントラルキッチンで毎日手作りされる。「キッチンチーム」と呼ばれる調理スタッフは、有名レストランの元料理長、子育て中の管理栄養士、食堂の立ち上げ経験を持つ調理師ら、さまざまな分野で活躍してきた食のプロで構成。マチルダの理念に共感したメンバー達が、「家で作るには少しだけ面倒な、大人も子どもも楽しめる家庭料理」を、味付けや見た目にもこだわりながら日々丁寧に作っているという。
また、注文や決済にはLINEのモバイルオーダーシステムを利用。ここに『10秒フィードバック』という機能を設け、ユーザーがメニューごとに『また食べたい』『どちらでも』『もう食べたくない』の3択で評価し、送信できるようにした。
「『10秒フィードバック』の回答率は非常に高く、貴重な社内データになっています。意見や感想を記入できる欄もあり、料理長をはじめキッチンチームのメンバーはそれらすべてに目を通して、レシピの見直しや改善に活かしています」と福沢さん。また、フィードバックの結果をもとに献立の人気・不人気ランキングをブログで定期的に発表し、不人気だった理由や改善すべき点もユーザーと共有しているそうだ。


さらに注目すべきは、日替わり料理でありながら、フードロスを1%台に抑えていること。それを実現しているのが、「1週間単位のサブスクリクション」と「数量限定の当日注文」にあると福沢さんは話す。
「前者については、毎週土曜を注文の締切りとし、日曜に1週間分の食数を確定することで、無駄なく食材を調達しています。後者については、注文後にキャンセルが発生した場合、その分を当日注文に回して必要なお客様にお届けする仕組みを作りました。子どもが発熱したり急な残業が入ったりと、子育て家庭ならではのイレギュラーな事情に柔軟に対応できる方法を模索した結果、当日に注文したいというニーズとマッチングすることで、フードロス削減に繋げることができたんです」
今年2月からは「&mog Food Lab」にテストキッチンを設け、メニューの試作・開発体制を強化。スチームコンベクションオーブンやブラストチラー(急速冷却・冷凍機)などの充実した設備も活用し、より迅速で柔軟なメニュー開発が可能になったという。現在は、献立の“別添え”として人気の自家製ラー油やドレッシングなどを単品で販売するため、商品化に向けた開発が進行中だ。

「『&mog Food Lab』への入居を機に、ハード面での支援はもちろん、三井不動産の分譲マンションやオフィスビルにステーションを設置させていただいたり、地域イベントに参加させてもらったりと、ソフト面でもさまざまなサポートを受けています。何より、&mogのメンバーの皆さんが私達の事業を盛り上げるために一緒に汗をかいてくださるのが嬉しくて、それも大きな励みになっていますね」
今後は、1日3万5000食の提供を目標に、ステーションの設置エリアをさらに拡大していきたいと話す福沢さん。また、日常の夜ごはんだけでなく、料理教室や農業体験など子ども達が社会に興味をもつきっかけとなるイベントも積極的に提供していく予定だ。
■プロフィール
福沢悠月
ふくざわ ゆうづき
株式会社マチルダ
共同創業者/CCO
横浜国立大学卒業後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。人事、マーケティング、スタートアップ支援などに従事。社会における子育て環境や食生活にまつわる課題に強い関心を持ち、2021年1月、丸山由佳さんと共に株式会社マチルダを設立。